永井荷風原作『四畳半襖の下張』の映画化で、遊びの限りをつくした中年男と初見の芸者との床シーンの数々を描く。
監督・脚本は「女地獄 森は濡れた」の神代辰巳、撮影は「戦争と人間 完結篇」の姫田真佐久が担当
1972年 雑誌「面白半分」に『四畳半襖の下張』が掲載されて、わいせつ裁判になったことに触発されて制作された映画と思われます。
1973年キネマ旬報ベストテン入選の映画です
神代辰巳は「ロマンポルノの帝王」、おすすめは「一条さゆり・濡れた欲情」でしょうか。
この映画は、ひとつの方向に向かっていません。大正中期、東京・山の手の花街の夏の日常を描いた映画です。4つの場面があり、その場面がいくつかに断片化され、時系列を追って繋合わされた映画です。
メインは、袖子(宮下順子)と信介(江角英明)の濡れ場です。
この演出が面白い 大正時代の花街の日常感が伝わってきます。
@袖子(宮下順子)と信介(江角英明)の場面
 
 客の信介は、三十歳半ばのちょっとした役者風のいい男で、世の中は米騒動で騒々しい最中なのに遊びに興じようという根っからの遊び人である。
江角英明という俳優さんですけどね 遊び慣れた立ち居振る舞いです
座敷に通された信介は、袖子の恥かしそうな仕草がもどかしい。
信介が上になって布団をはがそうとすると「初めてですもの、恥かしい」と電気スタンドの明りを暗くする袖子……。
我が青春の宮下順子!!
大変お世話になりました!!(笑)
恥ずかしい恥ずかしい、と連呼しております
そのうち信介が横になると袖子も仕方なしに横になる。
やがて、袖子の鼻息も次第に荒くなり、夜具は乱れ、枕はきしみ、伊達巻も徐々に乱れてくる。
カメラは固定したままです リアリティあります!
そして、信介の動きにつれて、袖子はもう気が遠くなりかけていた。
袖子は初めの様子とはうって変り、次第に激しさも加わり、枕がはずれても直そうとせず身悶えるのだった。
ここはまだ前戯です
そんな袖子の乱れる反応を、信介は反り身になって見つめていた。
やがて、信介は袖子の様子を見ながら、じっと辛棒していたが、袖子が「あれ、どうぞ」と髪が乱れるのにもかまわず泣きじゃくるのにとうとう我慢ができなくなり、袖子におおいかぶさっていった……。
「あれ、どうぞ」まで言わせてしまう、さすが遊び人!
あとは上になったり、下になったり、逆さになったり…
最近は、ほとんど立つことがなくなりましたが、さすがにここは反応しましたね(笑)
A花枝(絵沢萠子)と花丸(芹明香)の場面
 
ベテラン芸者・花枝が、新米芸者・花丸に芸者の作法を教えていますが、花枝が酔っ払って徐々にレスビアンのように…
意地悪そうなおばさん役でお馴染の絵沢萠子さんです。昭和生まれの人ならすぐにわかるでしょう 日活ロマンポルノの名バイプレーヤーです
B夕子(丘奈保美)と幸一(粟津號)の場面
 
ふたりは幼馴染です。会いたくてもすれ違いが多い。兵隊の幸一には時間がない。やっと会えても5分しかない。 シベリア出兵の時も時間がなくて「あと5分」でやってしまう。
会いたい気持ちが前戯となって、本番は5分あれば十分か?!(笑) 
C幇間ぴん助(山谷初男)のお座敷場面
 
旦那に「女がイクときの気持ちは、首を絞められて気が遠くなった時のようだそうだ。おい、ピン助、やってみろ」と無茶ぶりされて首吊りするピン助。危機一髪のところで助かります。
幇間 いわゆる太鼓持ちです 
お客と芸者の間に入って、その場を盛り上げる役割です
寄席の噺家の副業としてもあったようです
 
そして、突然、スクリーンに「終」の文字
え〜〜これで終わりか!
結局、男と女はアレしかないと思わせる映画でした。
 
余談ですが、雑誌「面白半分」で野坂昭如が編集長をやっているときに『四畳半襖の下張』を掲載しました。「面白半分」という雑誌は、作家が交代で編集長を務める面白い雑誌でした。
編集長は、野坂昭如、開高健、五木寛之、藤本義一、井上ひさし、遠藤周作………あと、筒井康隆もやっていましたね。定期購読していました。