【インタビュー・サマリー】 ※誤字・脱字はご容赦を
● 番組開始と小学館との縁
文化放送の『武田砂鉄のプレ金ナイト』にて、文芸誌GOAT編集長の三橋薫さんをゲストに迎えたインタビューが開始された。
武田氏は以前、小学館の文芸ポッドキャストで三橋さんと共演した経験があり、その縁で今回の対談が実現した。
小学館の本社は二階に受付があり、一階からエスカレーターで上がる構造で、受付には五人ほどのスタッフがいて、どこに行けばいいか迷うという武田氏の印象が語られた。
三橋さんは「好きなラインに並んでいただけたら」とユーモアを交えて応答し、和やかな雰囲気でインタビューがスタートした。
武田氏は神保町の東京堂書店で柏原編集者に声をかけられ、その場でGOAT二号への寄稿を依頼され、快諾したエピソードを紹介した。
● 文芸誌GOATの創刊と驚異的な売上
GOATは去年創刊され、武田氏が寄稿した二号が今年四月に発売され、両号とも五万部を売り上げる大成功を収めている。
累計で十七万部を突破する売上を記録し、文芸誌としては異例の大ヒット
となっており、業界内で大きな話題となっている。
三橋編集長によると、「文芸誌を初めて買った」という読者の声が非常に多く、新しい読者層の開拓に成功したことが最大の喜びである。
ファッション誌を買うついでに可愛いから買ってみた、文芸誌って何?という反応も多く、カジュアルに文芸誌を楽しんでもらいたいというコンセプトが実現している。
従来の文芸誌は良くも悪くもハードルが高く格式があったが、GOATは初めて手に取ってほしいという別のアプローチを取り、読書人口の拡大を目指している。
● 読書人口拡大への強い使命感
三橋編集長は「出版不況」と「読書離れ」という二つの単語が大嫌いで、憂いているだけでは何も変わらないという強い信念を持っている。
これらの言葉には「読まない人が悪い」という風潮や深層心理が含まれており、意識していなくても出版社の人間はそう思っている可能性があると指摘した。
読書人口が減っているのは読者の責任ではなく、作り手側の責任であるという考えのもと、出版社側が読者に歩み寄る必要があると強調した。
出版業界の人間同士で話すと、二十年以上前から「不況だね」という言葉から入るが、実際には何もしていないという現状を武田氏も認めた。
読書人口を増やすために、作り手側がやれることを全てやっていかなければならないという決意を三橋編集長は語った。
● GOAT創刊の経緯とコンセプト
新しく雑誌を作ることには大きなリスクがあり、社内からは「お前正気なのか」という反対の声も多く上がっていた。
しかし実際に成功すると、反対していた人たちが「あれはいいと思ってたよ」と言い始めるという会社あるあるを三橋編集長は経験した。
創刊時のコンセプトは、従来の文芸誌が持つハードルの高さを全部取り払い、ジャンルレスで国境も超えたおもちゃ箱のような雑誌を作ることだった。
GOATという名称は「Greatest of All Time(史上最高・かつてない)」の意で、ネットスラングのような使われ方をする言葉から着想を得ている。
マスコットキャラクターのヤギは、GOATの「GOAT」とかけており、紙が大好きで食べちゃいたいくらい好きという設定で「ゴートくん」と名付けられた。
● ゴートくんのキャラクターデザインと編集体制
ゴートくんのキャラクターデザインは非常に難航し、デザイナーの根本アキコさんが試行錯誤を重ねて完成させた。
ヤギは本来シュッとしていて、どちらかというと可愛らしいというよりはおじいさん感が強いため、ふっくらさせながらもヤギ感を残すバランスが重要だった。
最初は八頭身で首があるヤギ人間のようなデザインだったが、徐々に改良されて現在の愛らしいゴートくんになった。
GOATには正式な編集部が存在せず、十人ほどの有志メンバーが集まって雑誌を作るという異例の体制を取っている。
定期的な会議も行わず、神保町の喫茶店でお茶をしながら企画を練るという自由な方法で、会議室では出てこないリラックスした意見を大切にしている。
● 紙へのこだわりと資材の工夫
GOATは紙の雑誌として出す意義を追求し、所有したいと思ってもらえることを最重要視してデザインと資材に徹底的にこだわっている。
色上質紙という通常の書籍用紙の1.5倍から2倍の価格がする高価な用紙を使用し、カラフルでグラデーションのある断面を実現している。
米のもみ殻から再生した用紙を「愛と再生」という詩のページに使うなど、企画内容と資材をリンクさせる工夫を凝らしている。
NTラシャ漆黒という究極の黒い紙を浅井亮さんに提案し、資材ありきで企画が成立するという今までにない依頼方法を実践した。
表紙にはゴートくんの毛並みをイメージした特殊な紙を選び、触った時の感触までこだわり抜いている。
● 印刷技術と価格設定の挑戦
通常の印刷物はCMYKという四色で色を作るが、GOATでは特色を積極的に使用し、より豊かな色表現を実現している。
二号のナシさんによるプロフィール帳企画では、平成女児世代に懐かしいプロフィール帳形式で物語が進む斬新な試みが大きな反響を呼んだ。
このプロフィール帳は編集部メンバーやアルバイトまで参加して直筆で書き込み、様々な筆跡を再現するという手間のかかる作業が行われた。
これだけ分厚く高品質な内容でありながら、価格は510円という驚異的な安さで、明らかに赤字であることを三橋編集長も認めている。
文芸誌単体で採算を取るのではなく、ここから単行本や文庫を出すことで収支を立てていくという長期的な戦略を取っている。
● 環境配慮と読書のバリアフリー
GOATに挟み込まれているGOAT NEWSという小冊子は、小学館の使用済みコピー用紙を再利用して作られており、細部まで環境配慮が施されている。
EPSONと組んで使用済みコピー用紙を集め、また大王製紙のRIMSプロジェクトと連携して製造残渣から紙を作る取り組みを実践している。
創刊号では読書のバリアフリーを特集として取り上げ、市川沙央さんの発信をきっかけに、本を読むことが誰にとっても当たり前ではないことを深く認識した。
書店に行くこと自体が困難な人や、紙の本のページをめくることが難しい人がいることを知り、紙の雑誌にこだわりながらも電子版やAudibleも同時展開している。
文芸誌としては珍しくAudible版を提供し、家事をしながら、通勤中、運転中、畑仕事中など、様々なシーンで楽しめる形を模索している。
● GOAT文藝賞と選考過程の透明化
GOATはソニーが運営する小説投稿サイト「monogatary.com」と連携し、加藤シゲアキさんを選考委員長に迎えたGOAT文藝賞を開催している。
文学賞の選考会の模様は紙面に掲載されるだけでなく、ポッドキャストでも公開されており、選考過程の透明化に取り組んでいる。
公開されることで不用意な発言に気をつける必要があるが、どういう過程を経て作品が選ばれたのかを読者に知ってもらうことを重視している。
選考過程をオープンにすることは読者が最も知りたいところであり、多くのリスナーが熱心に聞いてくれている。
GOATmeetsという関連企画も展開し、「好き放題やってるな」という印象を与えるほど、従来の文芸誌にはない自由な試みを続けている。
● ジャンルレスな編集方針とコラボレーション
三橋編集長自身が雑食なタイプで、純文学から海外文学、本格ミステリー、ノンフィクション、詩まで何でも読むため、全部詰め込みたいという思いがある。
音楽がどんどん混ざっていくように、文芸界もジャンルの狭間にこそ面白いものがあり、ジャンルレスでいいという信念を持っている。
小説を読む人は小説だけでなく、音楽を聴き、映画を見て、演劇に行き、旅行するなど、多様な活動をしているため、全部混ぜた方が面白い。
ブックホテルと組んで京都で作家に宿泊しながら執筆してもらうなど、本をめぐる場との立体的なコラボレーションを積極的に展開している。
文芸誌はテキストが流れているだけの平面的な媒体になりがちだが、体験としても楽しんでもらえるものにしていきたいという展望を語った。
● 第三号「美」の予告と今後の展開
GOATは半年に一回のペースで刊行する予定で、第三号は12月3日に発売されることが発表された。
第一号の特集が「愛」、第二号が「悪」と来て、第三号のテーマは「美」であることが明かされ、「ビューティー」の美に限定されず多様な解釈が可能なテーマとなっている。
美というテーマは人によって美しいものが異なり、アプローチの仕方が幅広く、すでに集まりつつある原稿に手応えを感じているという。
定期的に出す媒体として最も避けるべきはマンネリ化と自己模倣であり、毎回創刊するようなテンションで取り組まなければならないと強調した。
今の世の中は消費が早く、同じことをやるとすぐに長持ちしなくなるため、常に新鮮さを保つことを心がけている。
● 編集方針と出版業界への提言
三橋編集長は編集メンバーに対して「この人に当たってほしい」という指示を一切出さず、それぞれがやりたいことを持ち寄る形を徹底している。
全員が言い出しっぺとして責任を持ち、自分のやりたいものに責任を持つことが重要だという編集方針を貫いている。
これは編集長として有志メンバーへの信頼があるからこそ成立する体制であり、個々の編集者の自主性を最大限尊重している。
出版業界では小説とノンフィクションなどジャンルが分かれすぎており、住み分けが強すぎて門外漢が近づきにくい雰囲気があると指摘した。
ジャンルで区別するのは作り手側の都合であり、読者は面白ければ何でもありという読者目線に立つことの重要性を訴えた。
● 継続への決意とメッセージ
GOATは510円という価格で提供されており、非常に重厚な内容でありながら手に取りやすい価格設定となっている。
三橋編集長は、書き手、読者、書店が応援してついてきてくださる限り、この雑誌を続けていきたいという強い決意を表明した。
今まで編集者が空気を読みすぎて遊びづらくなっている時代において、GOATの「好き放題感」は貴重な存在となっている。
新しい著者を意図的に開拓するのではなく、それぞれがこの人がいいと持ち寄って並べた結果、斬新さが生まれるという有機的な編集方針を取っている。
最後に武田氏から、一号・二号ともに510円で発売中であることが告知され、第三号の「美」も12月3日発売であることが改めてアナウンスされた。