【No.25】

2025年11月11日 和嶋慎治(人間椅子)





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【インタビュー・サマリー】 ※誤字・脱字はご容赦を

番組冒頭、武田砂鉄は「本日のゲストは人間椅子の和嶋慎治さんです」と紹介。
和嶋は「初めまして、人間椅子の和嶋慎治です」と挨拶し、和やかな雰囲気でトークが始まった。
武田は「実は今日は人間椅子のTシャツを着てきた」と語り、和嶋は「そのTシャツ、暗闇で光るんですよ」と笑う。
このTシャツは、和嶋の著書イベントの際に、人間椅子のアルバム『苦楽』ジャケットを手掛けたアーティスト・鈴木修氏から贈られたものだという。偶然のつながりに二人は驚いた。


■ OZZFEST出演と“再デビュー”の意味

和嶋は2013年、ブラックサバスがヘッドライナーを務めた「OZZFEST JAPAN」に人間椅子として出演。
彼にとって「ブラックサバスは最も敬愛する存在」であり、その前座として演奏できたことを「再デビューのような出来事」と語った。
演奏したのは代表曲「深淵」。長尺の10分近い演奏を堂々と披露し、メタルファンを圧倒した。
このOZZFEST以降、バンドの知名度や動員が大きく上昇し、「音楽ファンに再発見された」と振り返っている。

■ 「日本語を失ってはならない」──言葉へのこだわり

武田は、和嶋の自選詩集『詩人和嶋慎治自選詩集』に記された一節「我々は日本語を失ってはならない」を取り上げた。
和嶋は「デビュー前から日本語でハードロックをやることにこだわってきた」と語る。


父親が中学校の国語教師だったことから、幼少期から家に本が多く、文学に親しんできた。
小学生の頃には江戸川乱歩を、中学ではラディゲなど難解な文学も「背伸びして読んでいた」という。
故郷の弘前には太宰治が通った中学があり、自宅の向かいに太宰が下宿していた家があったというエピソードも披露した。

学生時代は運動が苦手で、部活動ではなく「図書局」に所属。地味な作業を好みながら、早くから創作活動に興味を持った。
高校時代には小説を書き始め、作詞作曲にも着手。最初は英語で歌詞を書こうとしたが「ネイティブではないから嘘くさくなる」と感じ、日本語でロックを表現する道を選んだ。
当時は「ロックに日本語は合わない」という通念があったが、和嶋は「だからこそ日本語でやる方が面白い」と逆に確信したという。

■ 創作の感覚──「自分ではない何者かが書かせている」

和嶋は作詞について「自分ではない何者かが書かせる瞬間がある」と述べる。
これはアスリートが体験する“ゾーン”に近い状態で、創作中に言葉が自動的に流れ出す感覚だという。
「手が追いつかないほど文章が出てくる」「自分を器にして書かせてもらう気持ち」と語り、イメージの力を何より重視する。

例えば「生きる」という曲では、「生きるとは何か」という根源的なテーマを簡潔な言葉で表すことを意識した。
また自伝『屈折くん』というタイトルは、学生時代に周囲から「屈折してるね」とあだ名をつけられたことに由来する。
それを「自分らしい」と感じ、むしろ誇りに思ったと振り返った。


■ 「おいしいトマト理論」──苦労が人を育てる

自伝には「おいしいトマト理論」という考え方も登場する。
「水を与えすぎない方が甘く育つトマトのように、人間も困難を経験した方が深みを持つ」というものだ。
和嶋は「挫折や苦労があって初めて人の思いやりや優しさが生まれる」と語った。

■ 超常体験と哲学的思考

和嶋は子どもの頃、ユリ・ゲラーのテレビ番組を見ながら「一緒に念じたら壊れたラジオが動いた」という体験を語る。
さらに高校3年生の時には「UFOが部屋に入ってきて数時間の記憶を失った」とも述べ、それが創作意識の転換点になったという。
以来、恋愛ソングではなく「世界の終わり」「超常」「宇宙」などをテーマにした曲を書くようになった。

また雑誌『ヘドバン』のインタビューで、「超能力があれば悪人を善人に変える力が欲しい」と語っている。
「悪を懲らしめても救いにならない。悪人を善人に変えられる力こそ真の超能力」と信じていると話した。

■ 新アルバム『まほろば』──暗闇から光へ

2024年11月19日にリリースされるニューアルバム『まほろば』は、人間椅子にとって24枚目のオリジナルアルバム。
タイトルの“まほろば”は古語で「素晴らしい場所」「理想郷」を意味する。


これまでの人間椅子は、人間の「暗さ」「業」を主題にしてきたが、今回は「光をテーマにした」と和嶋は語る。
「世の中が暗く見える時代だからこそ、暗さの中に救いや希望を見出したい」との思いで制作された。

収録曲「樹液酒場で乾杯」は、オジー・オズボーンやモーターヘッドのレミー、ランディ・ローズなど、亡きメタルレジェンドたちへの追悼ソング。
制作中にオジーの訃報が報じられ、深い思いで完成させたという。

また「地獄裁判」では閻魔大王の裁きを題材にしながらも、「改心すれば地獄から抜け出せる」という救いのメッセージを込めた。
「宇宙誘拐(アブダクション)」や「恋愛」をテーマにした曲もあり、これまでより幅の広い内容となっている。

■ 縄文への回帰と理想郷

アンケートで「願いが叶うなら縄文時代に戻りたい」と答えた和嶋は「争いが少なく平和が続いたとされる縄文社会に理想郷を感じる」と話す。
テクノロジーに支配されない素朴な生き方への憧れが、作品全体に通底している。

■ 作家としての活動と今後

和嶋は近年、小説執筆にも意欲を示し、KADOKAWAから短編を2作発表済み。
「書く手応えを感じたので、今後も音楽と並行して創作を続けたい」と話す。

アルバム発売後には全国ツアーを予定。
11月24日に弘前で初日を迎え、札幌・仙台・大阪・福岡・名古屋・高松を巡り、12月17日に東京・Zepp羽田でファイナルを迎える。
「セットリストは各地で変えるつもり。何度来ても楽しめるツアーにしたい」と意気込みを語った。

■ 厄年と人生観

自伝『屈折くん』では、ミュージシャン三浦純との対談の中で「41〜42歳の厄年が人生の転換点」と述べている。
武田が「私は今43歳ですが何を意識すれば?」と尋ねると、和嶋は「その年齢で与えられた課題を乗り越えることが大事。課題がないなら、それはそれで順調ということ」と応じた。

自身も若い頃に漫画家・大友克洋と出会い、「君は苦労していない」と言われた経験を明かし、「その後、人生でいろいろな苦労を重ね、ようやく胸を張って“経験しました”と言えるようになった」と笑った。

■ 終章──暗闇の中の希望

和嶋は「これまで人間の暗い部分を描いてきたが、今回は光を求める内容にした」と総括する。
「恋愛・結婚・死と再生・理想郷への希求といった、人間の根源的テーマを希望を持って描いた」と語り、「人間は苦しみや屈折を経て成長する。そこにこそ芸術の源がある」と締めくくった。
番組の最後に、ニューアルバム『まほろば』からタイトル曲が紹介され、「暗さの中にも光を見つめる音楽」として番組は幕を閉じた。


【参考(人間椅子のアルバム)】
[オリジナル・アルバム]
# 発売日 タイトル ジャケ写
1st 1990年7月21日 人間失格
2nd 1991年3月13日 桜の森の満開の下
3rd 1992年6月21日 黄金の夜明け
4th 1993年10月21日 羅生門
5th 1995年12月10日 踊る一寸法師
6th 1996年9月20日 無限の住人
7th 1998年2月21日 頽廃芸術展
8th 1999年3月25日 二十世紀葬送曲
9th 2000年6月21日 怪人二十面相
10th 2001年9月21日 見知らぬ世界
11th 2003年1月22日 修羅囃子
12th 2004年9月29日 三悪道中膝栗毛
13th 2006年2月22日 瘋痴狂
14th 2007年8月8日 真夏の夜の夢
15th 2009年11月4日 未来浪漫派
16th 2011年8月3日 此岸礼讃
17th 2013年8月7日 萬燈籠
18th 2014年6月25日 無頼豊饒
19th 2016年2月3日 怪談 そして死とエロス
20th 2017年10月4日 異次元からの咆哮
21st 2019年6月5日 新青年
22nd 2021年8月4日 苦楽
23rd 2023年9月6日 色即是空
24th 2025年11月19日 まほろば
[ベスト・アルバム]
# 発売日 タイトル ジャケ写
1st 1994年9月21日 ペテン師と空気男〜人間椅子傑作選〜
2nd 2002年8月21日 押絵と旅する男〜人間椅子傑作選 第2集〜
3rd 2009年1月21日 人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤
4th 2014年12月3日 現世は夢 〜25周年記念ベストアルバム〜
5th 2019年12月11日 人間椅子名作選 三十周年記念ベスト
[ライブ・アルバム]
# 発売日 タイトル ジャケ写
1st 2010年12月1日 疾風怒濤〜人間椅子ライブ!ライブ!!
2nd 2017年2月1日 威風堂々〜人間椅子ライブ!!