【インタビュー・サマリー】 ※誤字・脱字はご容赦を
■ 番組概要
文化放送「武田砂鉄のラジオマガジン」内コーナー「ラジマガ・インタビュー」では、ディスクユニオン新宿ヘヴィメタル館のスタッフであり、『SHADOWS OF EVIL:ブラックメタル・ディスク・ガイド』著者の田村直明氏をゲストに迎え、ブラックメタルの歴史・思想・音楽的特徴などを多角的に語った。
■ ブラックメタルとは
田村氏によると、ブラックメタルは1980年代の「ファーストウェーブ」と1990年代以降の「セカンドウェーブ」に大別される。
ファーストウェーブ(1980年代)
イギリスのVenomが1981年に発表した『Welcome to Hell』、および翌年の『Black Metal』が起源。
この「Black Metal」という語がジャンル名となった。
セカンドウェーブ(1990年代〜)
北欧、特にノルウェーを中心に爆発的に広がり、Mayhem、Darkthrone、Burzumなどが代表的存在となった。
■ イデオロギーと特徴
ブラックメタルは音楽的にも思想的にも過激な「エクストリーム・メタル」の一形態。
デスメタルが「死」「地獄」といった主題を扱うのに対し、ブラックメタルは「反キリスト」「サタニズム」「異教主義(ペイガニズム)」を根底に置く。
ノルウェーではキリスト教が社会規範であったため、反宗教的な姿勢が反社会的行為と結びつき、教会放火や殺人などの事件へ発展した例もある。
象徴的なのが、Mayhemのギタリスト・ユーロニモス殺害事件(1993年)である。
■ 視覚的要素(コープスペイント)
白塗りの死化粧「コープスペイント」は、Mayhemの初期ボーカル・Deadによって導入されたもので、「死を感じたい」という思想的動機に由来する。
KISSや聖飢魔IIのようなエンタメ的仮装とは異なり、宗教的・反社会的象徴として機能する。
■ 歴史を代表する三作品
初期:Bathory『Under the Sign of the Black Mark』(1987)
北欧発ブラックメタルの基礎を築いた作品。スラッシュメタルの速さに暗黒的世界観を融合。
これ以降の音楽的「型」を形成。
中期:Mayhem『De Mysteriis Dom Sathanas』(1994)
ユーロニモス殺害後に発表された問題作。
ベースはVarg Vikernesが演奏。独自のリフとAttila Csiharの異形の歌唱が唯一無二の個性を示す。
書籍・映画『ロード・オブ・カオス』でも象徴的に描かれた。
現在:Alcest『Écailles de Lune』(2010)
ブラックメタルとシューゲイザー、ポストロックを融合した「ポスト・ブラックメタル」の礎。
中心人物Neigeが生み出す幻想的サウンドは世界的に高評価。
田村氏は来日公演にも言及し、自身もTシャツを着て出演。
■ 現代ブラックメタルの広がり
ブラックメタルは今や他ジャンル(インダストリアル、アンビエント、フォーク、ハードコアなど)と融合し、多様化している。
日本でも「明日の叙景」のように、J-POP的旋律とブラックメタルを掛け合わせるバンドが登場。
一方で、ロゴが判読不能なデザインなど、文化的記号も独特の発展を見せている。
■ 推薦バンドと芸術性
田村氏が特に推すのは Deathspell Omega(フランス)。
その3rdアルバム『Si Monumentum Requires, Circumspice』(2004年)は、宗教的象徴性と哲学的深みを備え、「ブラックメタルを芸術へ昇華させた」と評される。
■ ディスクユニオンとパッケージ文化
ディスクユニオン新宿ヘヴィメタル館では、世界中のメタルファンが訪れ、海外客も急増。
田村氏は「音楽を消費物としてではなく、背景と作品性に向き合うべき」と著書後書きで強調。
「パッケージ(CD)を手に取り、ブックレットを読み、音楽を体感する」ことこそが音楽の本質だと述べた。
円安・材料費高騰により輸入盤は高価になっているが、コアなファン層によって「実物を所有する文化」は維持されている。
■ 日本のシーンと展望
日本ではSighやAbigailなど90年代から国際的に知られるバンドが存在。
規模は小さいながらも「日本は世界的に見てもブラックメタル先進国の一つ」と田村氏は評価。
経済不況や社会の鬱屈が新しいメタルを生み出す傾向もあり、今後の発展に期待を寄せた。
■ 結語
ブラックメタルは単なる過激音楽ではなく、宗教・文化・社会に対する反発と、芸術的表現の探求が融合した複合的ムーブメントである。
武田砂鉄氏と田村直明氏の対話は、メタルを“聴く文化”から“理解し、向き合う文化”へと再考させる内容となった。