【インタビュー・サマリー】　※誤字・脱字はご容赦を

■ ゲスト紹介と研究スタイル

社会福祉学者・竹端浩氏を迎えて話が進む。竹端氏は福祉“制度”を研究するというより、福祉とは誰のために、そして何のために存在するのかを社会学の視点から問い直す研究を続けている。精神病院でのフィールドワーク経験をもとに、「なぜ人は“危ない”“狂っている”とラベルづけされるのか」という差別や排除の構造を長年考察してきた。

　　　　

■ 「福祉＝弱者のため」ではない

福祉は「かわいそうな人だけの特別な制度」という他人事の感覚が一般化しているが、誰もが子ども時代にはケアを受け、老後には介護保険を使う。福祉はごく少数の例外のためではなく、すべての人の生活の基盤であると強調する。

■ “困った人”ではなく“困っている状態”

福祉的支援が必要な人を「困った人」と人格化すると、その人の全てをそのラベルで規定してしまう。しかし実際には、「困っている状態」があるだけであり、本人のそのほかの多様な側面を見えなくさせてしまう。
→ これは「メガネっ子」と呼ぶと人格を単一属性に還元してしまうのと同じ構造だと説明する。

■ 「他者の合理性」を理解するという姿勢

岸政彦氏が提示する「他者の合理性」——自分には理解しづらい行動にも“その人なりの理由”がある——を福祉の基本姿勢として紹介。
薬物依存、生活保護、ゴミ屋敷など、一見理解困難な行動も、背景には複合的な生きづらさがあり、その人なりの合理がある。それを“許す”必要はないが、まず理解することが行動変容の前提だと説明する。

■ 若者に広がる「迷惑をかけるな憲法」

学生たちは「迷惑をかけてはいけない」「評価される子でなければならない」という規範に強く縛られている。
少子化で大人の目が届きやすくなったこと、新自由主義社会での自己責任の強まりが背景にある。結果、他者比較が内面化し、自尊感情が低下している。

■ 「後ろ向き責任」と「前向き責任」

後ろ向き責任：過去の行為に対して責任を負わされ続ける考え方（例：生活保護受給者への偏見）
前向き責任：今の状況から、どのようにより良い未来を作るかを考える視点

  竹端氏は、厳罰化や自己責任論が後ろ向き責任を過度に強調し、社会を生きづらくしていると論じる。

■ 批判は「否定」ではなく「別の可能性の提示」

授業では「否定・非難」と「批判」を明確に区別することから始める。批判とは、相手の価値観や経験を否定することではなく、「別の可能性を一緒に考える作業」である。
学生は正解幻想にとらわれ、自分の意見を述べることを怖れているが、対話の場が否定でなく批判であると示すと、意見を言えるようになるという。

■ ケアとは「ままならぬものに巻き込まれること」

近年注目される“ケア”を竹端氏は「ままならぬものに巻き込まれること」と定義する。
子ども、病気、障害、老い——自分では制御できない出来事に巻き込まれると、人は能力主義的な生き方を崩される。しかしその“ままならなさ”に向き合うことこそ、ケアの本質だと述べる。

■ 総括

竹端氏の議論は、「福祉を他人事とし、他者理解を放棄し、自己責任を過度に信奉する社会」に対して、「誰もがケアを必要とする存在であり、他者の合理性を理解し、前向き責任を共有する社会」への転換を促すものである。