【No.34】2025年11月27日 武田一義(『ペリリュー 楽園のゲルニカ』作者)



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【インタビュー・サマリー】 ※誤字・脱字はご容赦を

■ 番組冒頭とゲスト紹介

 文化放送「武田砂鉄のラジオマガジン」に、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』の作者、漫画家 武田一義 がゲストとして登場。同姓名字の「武田の武」の説明をめぐる軽い会話からインタビューが始まる。

      
     

■ 漫画家としての歩み

 武田一義は28歳で上京し漫画家を目指す。デビュー作は、35歳で経験した精巣腫瘍(睾丸がん)の闘病を描くエッセイ漫画『さよならタマちゃん』。漫画業界では比較的遅いデビューだった。

    

■ 『ペリリュー 楽園のゲルニカ』誕生の背景

 作品の舞台はパラオ諸島のペリリュー島。太平洋戦争末期、日本兵約1万人と米兵約4万人が激戦を繰り広げ、日本側はほぼ全滅した。

  

 武田一義は、当時の天皇・皇后両陛下の慰霊訪問で島の存在を知り、戦史研究家・平塚柾緒氏から生還者の聞き取り資料を紹介され、兵士たちの“等身大の人間性”に触れて作品化を決意した。

■ 取材と創作方法

 日本側・米側の戦史文献や資料、写真、映像を調査。2017年に実際に島を訪れ、熱帯の酷さ、壕の環境などを確認。
また、塚本晋也監督の映画『野火』から“一兵士の主観”という視点の影響を受けている。

■ 主人公・田丸と「功績係」

 主人公は漫画家志望の21歳・田丸一等兵。任務は「功績係」(注1)と呼ばれる、戦死した仲間の最期を遺族に伝える役割。
戦場では不意の死、不名誉とも捉えられかねない現実が多く、遺族向けの手紙を「脚色」することで葛藤が生まれる。

 
 注1)「功績係」とは、戦死した兵士の最期の様子を、遺族に宛てて記録する係のことです。
      その役割は、美談に仕立てて記録を作成することでした。 
      役割: 戦死した兵士の最期の勇姿を記録し、遺族に手紙として送る。
      実際: 作中では、現実とは異なる美談として脚色されることがありました。
      文脈: 作中では、この係の仕事を通じて、戦争の悲惨さや虚しさ、そして何が正しいのかという葛藤が描かれています。

■ 戦場の心理と極限の身体

 兵士は恐怖と「自分は死なない」という不確かな確信の間で揺れ動く。撃たれて死ぬだけでなく、餓死者も非常に多かった。
武田一義は自身の抗がん剤治療で体験した“身体が思うように動かない極限状態”が、兵士の飢え・渇きの描写にも活かされたと語る。

■ “可愛い絵柄”で戦争を描く理由

 三頭身のデフォルメされた柔らかい絵柄は、重い戦場描写の“読み進めるための緩衝材”として意図的に採用している。
田丸自身が「絵を描くこと」で精神の均衡を保つ人物である点も重要。

■ 遺骨収集の現状

 ペリリュー島には現在も約二千柱以上の遺骨が残されたまま。近年、米軍の集団埋葬地が発見され収容が進むが、完全な帰還には至っていない。
戦後80年が過ぎてもなお未解決の課題が続く。

■ 終戦後まで描く理由

 戦中の体験は戦後の人生にも続くと武田は考え、終戦後を描くスピンオフ『ペリリュー外伝』を刊行。「戦後を描いてこそ戦争を描き切れる」という意識がある。

   

■ 劇場版アニメ化

 
 原作11巻を映画尺にまとめるため、物語の“芯”を抽出し、田丸中心の視点に再構成。武田一義は共同脚本として制作に参加。
田丸役は板垣李光人、田丸の相棒・吉敷啓介は中村倫也が演じる。
劇場版アニメ『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は 12月5日(金)より全国公開。