【No.35】2025年12月1日 佐藤信之(『日本のバス問題』著者)


【インタビュー・サマリー】 ※誤字・脱字はご容赦を

 文化放送「武田砂鉄のラジオマガジン」では、交通評論家・佐藤信之氏をゲストに迎え、著書『日本のバス問題(中公新書)』を中心に、日本のバスを取り巻く現状と課題について語られた。

   

■ バス輸送量のピークと衰退の背景

 ▪︎バスの輸送量は高度成長期にピークを迎えた後、自家用車の急増によって減少した。
 ▪︎当時、自動車メーカーが家庭向けの安価な車を大量生産したことでモータリゼーションが進行し、利用者が自家用車へ流れていった。
 ▪︎これが長期的な経営悪化の起点となった。

■ 運転手不足と「2024年問題」

 ▪︎近年クローズアップされている運転手不足は、“2024年問題”だけが原因ではなく、以前から若年層の不足が続いていた。
 ▪︎運転手に長時間労働が集中してきた歴史があり、収入は残業代で支えられていた一方、過労による事故も発生した。
 ▪︎働き方改革後は残業規制が強化され、運転手が増えない状況でダイヤ削減が避けられなくなり、路線の縮小や本数減少が進行している。

■ 経営難と賃金問題

 ▪︎バス事業は人件費の割合が非常に高く、利用者減少による収入低下が直撃してきた。保守・修繕を削るわけにはいかず、結果として賃金にしわ寄せが起こった。
 ▪︎業界への志望者は減り、かつてのような“バス好きの若者が運転手になる”という流れも細っている。

■ 自治体の対策は「応急措置」

 ▪︎自治体が若手雇用を補助したり、大型二種免許の取得ハードルを下げたりする取り組みはあるが、いずれも単年度予算に依存した短期策であり、持続的な制度にはなっていない。
 ▪︎長期的な制度設計がなければ、今後さらに厳しい局面に直面する可能性がある。

■ バスは「社会インフラ」である

 ▪︎佐藤氏は、交通は街を成り立たせる“基盤”であり、商店街、文化施設、学校、住宅選びなど、多くの生活要素に直結していると語る。
 ▪︎特に高齢者や免許返納者は公共交通に依存しており、サービス縮小は生活圏の喪失や外出機会の減少につながる。
 ▪︎交通は単なる事業ではなく、地域社会の維持に不可欠なインフラである。

■ ローカル線問題とバスの役割

 ▪︎赤字が続く地方鉄道の代替としてバス転換が議論されるが、「鉄道かバスか」ではなく、人々の移動可能性(モビリティ)をどう確保するかが本質だと指摘。
 ▪︎鉄道は広い空間と大量輸送、観光利用などに優れ、バスは日常的なドアツードア移動に適している。それぞれの特性に応じた役割分担が重要である。

■ 自動運転の可能性

 ▪︎自動運転技術は万能ではなく、適した環境が限定される。都市中心部の短距離移動や、山間部の高齢者向け移動などは導入の余地がある。
 ▪︎国交省が推進する「グリーンスローモビリティ(グリスロ)」のような低速電動車両は、高齢者の移動手段として有力と考えられる。

■ 都市部とコミュニティバスの課題

▪︎多摩地域のような郊外ではコミュニティバスが「1時間に1本」など低頻度で、高齢者が使いこなせない状況がある。
▪︎無人化や高頻度化が進めば利用しやすくなるが、道路環境・速度差・安全性など課題も多い。

■ 定時運行の難しさと改善策

 ▪︎バスは渋滞・信号など外的条件に左右され、早発が許されないため遅れやすい。
 ▪︎バス専用レーンや公共交通優先信号など、道路側の改善が定時性向上に不可欠だと指摘した。

■ 地域ごとに異なる「追い風」

 ▪︎高齢化、若年層の車離れ、インバウンド増など、公共交通への追い風要因はあるが、効果は地域によって異なる。
 ▪︎その地域の特性に応じた交通体系の再構築が不可欠である。

■ 情報提供と“わかりにくさ”の解消が課題

 ▪︎鉄道は認知度が高いが、バスは土地に不慣れな人にとってわかりにくい。
 ▪︎情報提供や案内の改善がなければ、利用者増につながらない。
 ▪︎バラエティ番組で「バス乗り継ぎが難しい」ことが企画になるほど、構造的に複雑化している点も指摘された。